2016年2月23日火曜日

一週間


 
振り返ってみても、
先週は、数ヶ月分の旅をしていたような
1週間だった。
 
なんだかぐんぐんと、色んなことが巡り始めて
知恵熱が出たのか、この頃の温度差が自律神経に響いたか
月曜日の夜に吐き気と頭痛が急にやってきて
その日のうちに、翌日の仕事を休みにさせてもらった。
 

色々が、ぐっと密になっていて
でもからだが追いつかないような感じがあって
ひと晩眠ったら、
頭痛もなにも、なくなっていたけれど
すこし、隙間がほしい。と思って
仕事はそのまま休ませていただくことにした。
 
 
ふと、篠山へ行きたい。と思って
佐田さんのところを訪ねた。
電車に乗って1時間以上、ごとごとと行く。
神戸を越えて、三田を過ぎて、
景色が変わっていく。
 
冬枯れた田畑、
そのむこう
もう春のあかるい緑が、生まれ始めている山の色。
山の岩肌。空。
 
佐田さんは、篠山に土地を買った。
もともとあったプレハブ小屋を土台にして、
家族で暮らす家を作ろうとしている。
 
篠山口の駅
佐田さんの軽トラが迎えてくれて
彼の同級生の、ぶんぶんという男の子も合流し
一緒に佐田さんの土地へ行く。
 
佐田さんとぶんぶんが、大工さんが入る前に
倉庫として使われていたプレハブの内装の解体をしていく。
わたしは、ほうきで、
周りを掃いたりしていた。
 
猟を始めている佐田さんが、
「山に仕掛けた罠の見回りへ行く」
と言っていなくなって
薪ストーブの前でぶんぶんとふたりになった。
 
ぶんぶんは、とてもしずかな口調で
ことばをひとつひとつ
やわらかく置いていくように、話すひとだった。
黙っていても、喋っても、一緒にいる感じがするひとだった。
 
「なおちゃんは結婚せえへんの?」
「する予定でいます」
「え!いつ?」
「いいひとが見つかったら」
「そーゆーことか。もてるやろ」
「…(もてへん。というか独身のひとが、おらんねん)佐田さんに紹介してもらおうと思う」
「俺も結婚するって思ってなかったんやけど、これからのこと考えたときに、この子しかおらんなって思った」
 
ぶんぶんは夏に、結婚式を挙げる。
 



「俺の兄ちゃんの友だちが、ALSになって、もう目しか、動かせへんの。でもその人な、ヘルパーできてた女性と結婚してん。すげぇなぁって思って」

「そうかぁ…。わたしさ、ヘルパーやっていたから、それはあるなって、わかるの。
私もヘルパーの仕事をしていた時に、
生まれつきの筋ジストロフィーっていう病気で、
からだは子どもみたいに小さくて、車椅子で生活している男性がいたのだけど、
わたしこの人のこと、好きになるな、と思ってた。
でも、自分の介助していたひとの、職場のひとだったし
直接の関わりじゃなかったから、そうならなかったけど、
すごく、いいなって思っていたんだ。
けっこう、関係ないんだよ。
でも、わたしがすごいな、と思うのは、女性の方じゃなくて
そのALSになった、男性の方。
障害を持ったら、恋ができないと思っているひとは多い。
自分の存在が、負担になると感じるからだと思う。
だから、もう恋をしないと決めているひともたくさんいる。
それでも、相手を受け入れて、結婚した、そのひとが、すごい」
 
身をまかすほうが、勇気がいることも、ある。
 
 
 
ヘルパーの仕事をしていた時には
素っ裸で、身を預けてくれる
そのひとの信念の美しさに
本当に何度もうたれた。
 
そこに助けられて
働いていた。
 
 
ぶんぶんは、静かにお茶をすする。
火のそばは、あたたかい。
 
篠山はその日も雪が降った。
 
山から戻ってきた佐田さんが、寒かろうとセーターを貸してくれた。
 
「ここにいると、どういう風に暮らしていきたいのかが、よくわかるな」

ぶんぶんがそう言った。

 
 
翌朝、
埼玉から陽子さんが来てくれた。
夜行バスに乗って。
 
朝、九条の駅で陽子さんと待ち合わせる。
 
家に来てもらって
シャワーをすすめたけれど、
お風呂に入ってきたと話してくれたので
桶にお湯はって、足湯してもらった。
 


さおりさんのアトリエでお手伝いさせていただいていた時、
作業でからだがこりかたまっては
順番に足浴した。



その時の、桶に湯をはって、白湯をいれて、タオルを用意してくれる
さおりさんの手際は見事で
与えられていたひとつひとつの所作が、
いつからか私の中にも宿り始めた。
 





陽子さんと
朝ご飯を食べたり
wica groceryのわくわくする打ち合わせをぱーっとする。
 


陽子さんが行きたいな、
と考えていたお店は定休日で
大阪を案内できるほど、わたしもまだここをよく知らない。
 
佐田さんに会ってもらいたい、と、ふと思った。
陽子さんから話を聞いていた、栃木にあるお店で
彼は4年間、働いていた。
 
何か繋がるものが、あるような感じがしたし
どこかわからない場所を案内するよりも
ひとりの人に会う方がきっと豊かだと思えた。
 


篠山へ向かう前に
事務所にバイト先の焼き芋を置いておくね、と聡くんに伝えていたので
陽子さんにすこし、部屋で待っていてもらって
自転車を漕いで事務所までお芋を持っていくと
事務所の前で聡くんがタバコを吸っていた。



 
陽子さんとの埼玉時空間にいたので
聡くんと会って大阪時空間が生まれ
時空のはざまで、すこしぐらつく。
 
そのことを話しながら
「ひとが時空を連れてくるね」
と伝えると
「ひとが時間だって言ってた」

聡くんと橋本さんが、昨日ちょうど話していたことを
聡くんが伝えてくれた。


ひとが、時間。


 



事務所から戻って身支度をして
阪神の駅から電車に乗って
陽子さんと篠山へ向かう。
 

陽子さんは、ふっと目を閉じて
かるく眠っているようだった。
 
長い距離を、ひと晩かけて
やってきてくれたんだ。と思うと、
じんわり嬉しくなった。

そしてさらに、時間をかけて移動してもらっている
このことが陽子さんにとって、よいことなのか
まだわからないから、すこし心細くなった。
 


陽子さんのトレンチコートの、
きれいな生地。
やわらかな影。
 
目を覚ますたびに、変わる車窓の景色。
 
 
篠山に着くと
佐田さんが軽トラで迎えにきてくれる。

荷台に畳が敷いてある。
そう、軽トラはふたり乗り。

わたしは荷台に乗って、
上からブルーシートをかけてもらう。
 
陽子さんと佐田さんが
車の中で何を話しているのかは聞こえてこない。
軽トラの走る振動と、ブルーシートの綺麗な青。
 
養豚になった気持ち。
(こんな感じで、運ばれているんだなぁ、豚は。)
そう思いながら、目を瞑った。
 
 
ふいにブルーシートが開いてしまって
風が入る。山が見える。
それからちいさな、あられが入ってきた。
 
冷たい風。
 
ブルーシートをおさえながら
すこし走って
連れていってもらったピザ屋さんで
昼ごはんを食べた。
 
 

佐田さんの家をつくってくれる栃木の大工さんと
陽子さんと関わりの深いcimaiさんの2階、shureの改修をした大工さんが
同じひとだとわかったり

その後も共通の知人の名前が出てきて
道は通っていくのだなぁと感じる。
 
 
ピザ屋さんで、テーブルの順番を待っていると
ちょうどお芋屋さんのオーナーから
放射能に対する、オーナーの考え方と店の方針が
メールで送られてきて
 
陽子さんと佐田さんとそういう話もできて、よかった。
 
 
関東にいると
「福島」と、話題になるけれど
大阪にいれば
「東日本」と、話題になる。
 
なにを請け負って、自分たちが生きているのか
ということと
 
今のわたしが、
どう暮らして行くか
という話。
 
 
 
 
ピザを食べたあと、佐田さんの小屋へ行って
薪ストーブにやかんをのせて
陽子さんが持ってきてくれたお茶っ葉を入れた。

 
「美味しかったの」

昨年末、陽子さんが芦屋を訪れた際に
そこでいただいたお茶とおなじものだという。


芦屋へのその旅が、
陽子さんにとって
大切なものだったことを知っている。


 
くつくつと湧かし
紙コップに分け注ぐ。
 
茶葉のすこし混じったお茶の
甘いフレーバー


 
佐田さんは陽子さんのことを
「素敵なひとだね」と言った。
 
小屋は木屑が散っていたり
改装前で埃っぽい。
 
「こんなところで」と佐田さんは言ったけど
陽子さんが
「こんなところ」を、愉しんでくれるひとだと
わたしは知っている。
 
だから
ふたりに
会ってもらいたかったんだ。
 
 
自分が、どう生きて
どう生きられるのか
 
成長する、とか、目標をもつ、という方法じゃなくて
本質として、どう在ることが
自然なのか
 
探求している、ふたりのひと。
 
 
目の前のことに 立ち止まり
心の正直なところが見えるまで
時間をかけられる、それぞれのひと。
 



 
「小菅さんち行ってみようか」
と、佐田さんが言って
篠山へ移住した、友人宅を訪ねて帰ることにする。
 

 
小菅さんちへ行く前に
佐田さんが家の改修の間、借りている篠山の古民家に立ち寄り
陽子さんがくれた、茶葉を分けあった。

大きな台所にあがってアルミホイルに茶葉を包んでいく。
「陽子さんは?」と
玄関をのぞくと
広いその土間に、
陽子さんがぽつんと座っている。
 
連れ回している感じに、なっていないかな。と
ふわっと心配が湧く。
それと同時に
ひとりでいるその佇まいに
なんだか、とても、陽子さんらしいものが
感じられて
心に残った。
 
 
 

分け合った茶葉を持って
ふたたび、小菅家へ向かう。
 
車は街中からはずれていく。

広い田畑のなかに
ぽつんと、
小菅さんちはあった。
 
夜は深く、朝霧しずかにたちそうな
そんな場所にあった。

 
 

 
仕事柄、 
色んな物を、見て
きっと浴びる程、たくさんのものを見て
たくさんの人と会って、
生きてきたふたりが
これからの暮らしの場所として
篠山を選んだこと
 
小菅さん夫婦から
そのうちにゆっくり、聞かせてもらいたい。
 
 
それはきっとまた、
深い川に触れるような
ことになるんだろう。


 
 
「なおちゃん住んでいたのは狭山でしょう。これからは、さ、さやまだよ。
フェンスで1年くらい働いて、篠山にくればいい」
 
と小菅さんちのテーブルを囲いながら
佐田さんが冗談を言う。
 
 
篠山はいいところ。
 
自分がずっと、大阪にいるのか
狭山に戻るのか
それともぜんぜん、今はしらないところへ行くのか
さ、さやま、と篠山にいるのか
 
これからのことは、わからない
ということが
わかる。

 
 
「借金してしまったな」
小菅さんと佐田さんが、そう言い合う。
 
ローンを組んで
これから、支払い続ける覚悟をもって
 
生きて死んでいく
場所をみつけた

ふたつの家族。
 
わたしは、わたしの父のことを考えた。
 
 
 

奥さんのかんちゃんは
カップが空になるたび
ポットからお茶を、何度も
そっと、注いでくれた。

小菅さんたちも
その晩のうちに車で出発して
埼玉へ向かうと話してくれる。
 
陽子さんと私も
篠山から梅田へでて
そのまま別々の夜行バスで、埼玉へ帰る予定で座っていた。
 
篠山の、テーブル、その一点から
みんなバラバラに
その夜、関東へ向かう。
すこし前の、滞空時間を
共にしている。
 
夜が浮いていく。
 
 



さて、と腰をあげて
みんなでラーメン屋で晩ごはんをいただいてから
 
佐田さんと別れ
小菅さんちの車で
篠山口の駅まで送ってもらう。
 
陽子さんと私がエレベーターに乗るその瞬間まで
小菅さんたちは
手をふって見送ってくれていた。
 
 


陽子さんとふたり
大阪駅までまた
長い、長い距離
ごとごとと電車に乗って
きた道を戻って行く。
 
 
ふいに陽子さんが
佐田さんと私がどう見えたかと
話してくれる。
 
 
その目線が、わたしには嬉しかった。
 
 
大阪にくることを、佐田さんは本当に助けてくれた。
 
佐田さんだけではない。
くぼやん、くぼやんの奥さんであるようこちゃん
のこさん…
 
見送ってくれたひとの力もあるし
こっちで、待っていてくれた人たちがいる。
 
時間をつくって会ってくれたり
「家が見つかるまで、泊まっていい」と
言ってくれたりした人たち。
 
 
「自分って、自らを分けるって、書くでしょ。
ぼくは、自分っていうのは、自分の命を注げるひとまでのことを、いうと思ってる」
 
そう佐田さんは言った。
 
 
わたしは
わたしに、しがみつく。
 
それでも
本当は
それはきっと、本当の姿にならない。
 
 


 
わたしはいま
それを
すごく、教わって
学んでいる感じがする。
 

本当の芯から、知っていっている
気がする。
 
 
陽子さんは
きれいな人だ。
 
その目で、いまの自分を
見てくれたことが
嬉しかった。
 
 
 
また、梅田の
大きな街のなかに戻って
バス停を目指して歩く。
 
月が光ってる。
 
 
ひとに触れていくことで
生きていくことができる。
 
 
 
バスに乗り込む
陽子さんの姿を見送って
 
わたしも、リュック背負って
翌朝新宿駅着の
バスに乗る。
 
 

ここまで 
まだ、
週はじめの、はなし。
一週間は、長い。
 

 






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